2023.07.14
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【ものづくり知識いろいろ】「来たものは断らない」若手の雇用で研磨業に新風を吹かせる株式会社S・P・I

『燕三条こうばの窓口』が展開する、地元製造業と企業のビジネスマッチングサービス「ものづくりコンシェルジュ“MOC”」(以下、MOCサービス)を通じて、新たな活躍の場を求める“ものづくり企業”を紹介します。今回は、全員40代以下の従業員で研磨業に臨む株式会社S・P・Iの挑戦を報告。

独立と同時に研磨のほぼ素人を雇用


株式会社S・P・I(以下、SPI)のホームページから主な事業内容を抽出すると、“各種研磨”となります。その具体的な説明を代表取締役の更科伸悟さんに求めると、次のように話してくれました。

 

「素地やプレス加工、機械加工後の金属製品のキズを取ったり光沢を出したり、削って形を作ったり、また、溶接でくっつけた金属の溶接個所を平らにするなど、金属加工の集積地である燕三条においては、あらゆる製造工程の最後を担うのが私たちです」

▲株式会社S・P・I 代表取締役 更科伸悟氏

そこに誇りを抱いているのでしょう。昔ながらの職人らしい口ぶりで、自らを研磨屋と称します。

更科さんが研磨屋となって約20年。実は、父親が一人で研磨業を営む家に生まれました。しかし、息子に継ぐ気はなく、父親も家業の継承について語ったことはなかったそうです。

 

「継ぐ云々というより、私は障がいのある方を支援する施設で働いていたのですが、24歳で結婚し子どもを授かってという人生の転換期を迎えて、修行する形で改めて父親に研磨の仕事を教わりました」

それから3年。「何でも自分でやってみろ」と諭す父親の後押しを受けつつ、退路を断つ覚悟で独立します。それと同時に、研磨のほぼ素人を雇用。やがて法人化を果たすという、伝統的に個人請負が主流の研磨業の中で独自の道を歩み始めました。そうして現在は、全員40代以下の5名の従業員を抱える、小さいけれど確かなチームを持つ企業となりました。

 

「来たものは断らない」

 

これはSPIの得意分野をたずねた際の、更科さんの回答。技術や機材を自慢しないところに更科さんらしさが潜んでおり、その解説に本文を捧げようと思うわけですが、まずは現段階で予告をしておきます。

この「来たものは断らない」という回答には、人と働くことを望んだリーダーの2つの思いが込められていました。

何より一人じゃおもしろくないじゃない


1つ目の思いが向くのは、“もの=者”。歴史的な金属加工業の町の後継者不足は、年を追うごとに深刻さを増しています。SPIがあえて若手を雇用するのは、言うまでもなくその解決策の一環です。

 

「でも、私一人が頑張ったところでこの地域の高齢化を止めることはできません。ただ、1つの製品をつくる最初から最後までの工程をここで完結できるのは燕三条特有の面白味だし、その魅力もあると思うんです。だから、重労働で決してキレイな仕事とは言えない研磨であっても、少しでも若い子に興味をもってもらおうと、その一点に注力してきました」

しかし、人材確保は永遠の課題だそう。ハローワークに求人情報を出したり、知り合いに声をかけたりしても、面接まで漕ぎつけるのは年に1人か2人。ようやく働くことになっても、長続きしないケースも少なくありません。そんな苦労を繰り返しながら、現在の人数をSPIに招き入れることができました。彼らに対しては、どんな指導を行ってきたのでしょうか。

 

「まず知ってほしかったのは、この仕事の醍醐味でした。やればやるほど稼げるのが研磨です。そのためには個人の技術が必要で、努力を続けていれば必ず、昨日までできなかったことが今日できるようになる。その先で応用力も身に付いていけば、より困難だけど達成感が大きい仕事も入ってくる。その面白さを根気よく丁寧に伝えるだけですね。あとはコミュニケーションでしょうか。自分は社長ですけれど、毎日現場に入って一緒に作業します。すると、日々腕を上げていく若い子に負けたくない気持ちが出てきますね。張り合うわけではないけれど、共に切磋琢磨していく空気が宿っていくのを感じると、法人にしてよかったと思います」

そんな感想に対して、逆説的な質問を投げてみました。業界の先細りを案じて若者と働くのは素晴らしい試みだとしても、一人の工賃取りとして身を立てるほうが何かと楽ではなかったでしょうか?

 

「研磨は納期が短い仕事が多いので、一人よりは複数のほうが単純に生産数を上げられます。それで独立と同時に人を雇ったのですが、何より一人じゃ面白くないじゃないですか。この間、22歳の女性が入ったんですよ。女性の力も必要だと妻と話し合っていた矢先だったので、うれしかったですね」

 

これはあくまで想像ですが、前職に障がい者支援施設を選んだのも、生来世話好きで面倒見のいい性格を生かすためだったかもしれません。

一緒に成長し、町工場のイメージを明るくしたい


2つ目の思いは、経営者として重要な、“もの=物”に向いています。

 

「若い子に必要なのは、物をつくり上げる経験です。なので仕事量を確保するためにも、どんな依頼が来ても断らないようにしています。その一方で、安い仕事ばかり受けていたら従業員が稼げないし、技術的な知識も広がっていかない。ですから、できるだけ彼らがやったことのないような新しいものづくりも探し続けなければなりません」

その経営努力を後押ししてくれると期待しているのが、“MOCサービス”です。自社サイトでも「全国、全世界に燕市のモノづくりの技術を提供する」と標榜しており、かつてないつながりはSPIの成長に大きく寄与すると考えています。

 

「人材不足が心配されている一方で、実際の引き合いは増えています。それをこなせる人材が減っているのが、とにかくもったいない。うちの会社はチームで研磨に携わっていますから、燕三条地域内はもちろん、外の仕事の取りこぼしもしたくないんです。さらに新しいつながりを模索していけば、難しい分だけやり遂げた達成感が大きい仕事にも巡り合える。時々そういう依頼が入りますが、できるだけ従業員に任せます。私自身がそうだったように、それが飛躍のきっかけになりますから」

人は財産。そして、従来の研磨屋にはなかった若者中心というカラーも、MOCサービスを通じてアピールしたいSPIの特徴だといいます。

 

「町工場のイメージを明るくしたい。その意味で若い女性が入ってくれたことも、この会社がより面白そうに見える力になっていくんじゃないでしょうか。将来的には、従業員がやりたいことを尊重しながら、研磨屋にこだわらず、たとえば製造工程の最後からさかのぼるような仕事も取り入れていきたいと思っています。具体的な目標は、従業員を2倍の10名に。工場も自宅の敷地内から出せるほど拡張したいです」

最後に、SPIを目指す未来の従業員に向けてメッセージをもらいました。これがまた、いかにも職人らしい粋な言葉でした。

 

「稼ぎたいならここに来い、ですね。今は働き方改革によって残業も減りましたけれど、もっと働きたい人もいるんじゃないかと。そうであれば、これと決めた商売で稼いだほうがいい。ここなら、一緒に成長できます」

このメッセージ、更科さんが求める若い世代にどう響くかはわかりません。ただ、取りも直さずSPIの挑戦は新風となり、これまでの研磨業に風穴を開けるかもしれません。それがやがては、燕三条から吹く普通の風になるのかもしれません。その可能性を誰よりも信じているのが更科さんなのでしょう。


 

INFORMATION

「ものづくりコンシェルジュ“MOC”」

 

地元製造と企業のビジネスマッチングサービスです。燕三条の企業を全国各地・海外とつなぎ、新たなビジネス創発を目指します。

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text by 田村 十七男
Photos by 大石隼土

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