2023.11.06
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【ものづくり知識いろいろ】燕三条地域を結びつける新たな挑戦 〜熊倉シャーリング有限会社〜

『JRE Local Hub 燕三条』が展開する、地元製造業と企業のビジネスマッチングサービス「ものづくりコンシェルジュ“MOC”」(以下、MOCサービス)を通じて、新たな活躍の場を求める“ものづくり企業”を紹介。今回は、燕三条の金属加工産業を支えてきた『熊倉シャーリング有限会社』に、ものづくりに対する想いやビジネスの展望などについてインタビュー。

多くの製品の元となる鉄鋼の素材(鋼材)を仕入れ、扱いやすい大きさに切断し、加工工場に渡す“シャーリング”というお仕事。その生業を昭和45年から営む『熊倉シャーリング有限会社』(以下、熊倉シャーリング)は、燕三条における金属加工産業を長きにわたって支えてきた存在です。「材料仕入れから製品完成までの一貫生産」が信念。さらに現在では、地元の製造業と全国の企業との架け橋になるべく生まれたMOCサービスを通して、新たなビジネスの創出を目指しています。今回は、熊倉シャーリングの代表取締役を務める熊倉正人さんにインタビュー。自社が持つ独⾃の技術や特徴的なサービス、ものづくりに対する想い、そして今後のビジネス展望などを聞きました。

▲熊倉シャーリング有限会社

一貫生産を請け負える会社とものづくりの新たなプラットホーム


熊倉シャーリングの創業は、遡ること昭和45年。歴史的に金属加工が盛んな土地として知られる燕三条で、会社名にもある“シャーリング”を生業とする会社を、現社長である正人さんの祖父が立ち上げました。

「当時、燕市では工業団地の拡大によりスプーンやフォークなど金属洋食器の製造が盛んで、それらはプレスという技術によって加工するのですが、プレスにて製品を加工するには元となる素材が必要になってきます。熊倉シャーリングは洋食器のみならず、多くの製品の元となるさまざまな素材を仕入れて、プレス加工向けの大きさに切断し、加工工場に渡す“シャーリング”という仕事を主に手掛ける会社として創業しました」

▲熊倉シャーリング有限会社・熊倉正人代表取締役社長

しかし、創業から時が経つにつれて、「部品まで加工できないか?」という需要が増加。その声に応える形で、熊倉シャーリングは切断だけではないプラスアルファの加工技術にも着手し、最終製品まで一貫生産できる体制づくりに方針転換しました。そしてそれを可能にした要因のひとつが、タレットパンチプレス機です。

「タレットパンチプレス機は金型を弊社で用意し、すでにある金型を組み合わせて加工するので、お客様が費用をかけて金型を作らなくていいのがメリットです。さらに自分が入社して以降は、より複雑な加工が可能になるレーザー加工機なども導入し、一貫生産を請け負える会社を目指して現在に至ります」

正人さんが父である前社長の後を継ぎ、代替わりで社長の座に就いたのは2018年のこと。当時の熊倉シャーリングは、地域での連携や新しいチャレンジの必要性を感じていたと正人さんは振り返ります。

「当時も地域内で少しは連携を取っていたのですが、自分の知っている範囲でしか連携が取れていませんでした。それって今思うとやはり、『あの工場って何ができるの?』とか『何の技術があるの?』とか、そういったところまで深く知る機会がなかったのが大きかったのかなと思います」

そんな正人さんが動き出したのは2020年──燕三条地域の若手経営者10名で、ものづくりの新たなプラットフォーム・株式会社ドッツアンドラインズを設立。その最初のアクションが、無人駅(JR帯織駅)を利用したものづくりのHUBシステム「EkiLab帯織(えきらぼおびおり)」を作ることでした。
「始まりは、私が40歳まで所属していた燕三条青年会議所。そこに今のドッツアンドラインズのメンバーのほとんどがいて、一緒に地域貢献の活動をしていました。そのときにドッツアンドラインズで代表を務めることになる齋藤和也がJR東日本グループさんとの繋がりができて、『地域にチカラを!プロジェクト』による無人駅の新規活用事業案に応募したところ、選んでいただいたんです。そこから『EkiLab帯織』を作るためのクラウドファンディングを立ち上げました。結果的に目標金額を達成することはできたのですが、その費用では実際に施設を建てられず、そのときに仲間と出資して会社を設立しました」

正人さんには、これまでとはまた違った形での関わりを通して、得た発見と共通認識がありました。

「やっぱり『自社だけではなかなか勝ち残ってはいけない』という認識はみんな共通で。1社のみでYouTubeのPR動画を作ったり、営業に行ったり、展示会を開いたりとかは限界があると。連携してやることの必要性はみんなが感じていました。それに『自社の利益を上げるためには、まずは地域が活性化しないと人も仕事も集まらない』という認識も実はみんな一緒で。会社名もそういう想いから、点(Dots/ten=10)と線(Lines/sen=1,000)をつなげるという意味でドッツアンドラインズと名付けました」

“地域をつなぐ”“世代をつなぐ”地方創生型ワークプレイスがオープン


そのドッツアンドラインズにとっての次なるアクションこそが、燕三条駅構内に2023年2月17日にオープンした地方創生型ワークプレイス『JRE Local Hub 燕三条』です。“地域をつなぐ”“世代をつなぐ”をキーコンセプトに、地元製造業と県外の企業をマッチングさせるものづくりコンシェルジュ『MOCサービス』、 情報発信拠点の『燕三条こうばの窓口』、時間制シェアオフィスや遠方でも臨場感のある会議が可能な『空間自在ワークプレイス』、さらには人材育成プログラム『JRE STATION カレッジ』などをこのスポットから展開します。

「そもそもやっぱり『工場って入りづらいよね』と皆さん思っているでしょうし、ものづくりの相談を企業に直接頼むのも難しいですよね。そういう意味で、誰でも相談できる窓口って必要だなということを、『EkiLab帯織』を作るときから思っていました。県外のお客さんからも『(燕三条で)相談したけどうまくいかなかった』というような声をけっこう聞いていたんですね。これだけの工場があって、これだけの職人がいて、そんなはずはないだろうと思ったんですけど。なので『JRE Local Hub 燕三条』は県外のお客様にとって燕三条と繋がることができる場所になるでしょうし、ここで情報を集約・発信して、もっと地域を盛り上げていきたい」

『JRE Local Hub 燕三条』は地域や世代と“つなぐ”ことをキーコンセプトにしていますが、実はつなぐものはそれらだけではなく、オープンに向けて新たなマッチングがすでに生まれているようです。

「最初はものづくり同士のつながりだけしかイメージしていなかったのですが、つい先日は大手旅行会社さんが注目してくださって工場ツアーを検討してくれました。それはただのツアーではなく、ものづくり体験のツアー。工場で機械のスタートボタンを押してみたり、自らの手で加工したりする体験型のツアーを提案したらすごくいい反応がありました。そういう切り口の企画は新しいマッチングとしてこれから楽しみですね」

『JRE Local Hub 燕三条』のオープンに向けた準備段階では、スケジュールが詰まっている中で、什器などもドッツアンドラインズのメンバーで制作。オープン前の段階ですでに正人さんは今後の展望も見据えていました。

「『JRE Local Hub 燕三条』は内閣府が推進する地方創生テレワークタイプの対象事業に採択されていますし、この場所を通じて今後は他の地域と燕三条をもっとつなげていきたい。あとはさらに他の地域でも『JRE Local Hub』を展開することができたら、またその地域との連携もできて、もっと新しいイノベーションが生まれるはず。今後はそういったつながりをどんどん活性化させていきたいですね」

今や“ものづくりのまち”として、日本全国に知られるようになった燕三条。ただし、もしかしたらそのポテンシャルはまだまだ十分に発揮されていなかったのかもしれません。燕三条の工場と国内外メーカーの、需要に対してベストな座組みで生まれる新たなビジネスチャンス。『JRE Local Hub燕三条』をきっかけとした多種多様なマッチングにより、燕三条の地で“地方創生”の新たな花が咲く日もそう遠くないことでしょう。


 

INFORMATION

「ものづくりコンシェルジュ“MOC”」

 

地元製造と企業のビジネスマッチングサービスです。燕三条の企業を全国各地・海外とつなぎ、新たなビジネス創発を目指します。

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text by ラスカル(NaNo.works)
Photos by 大石隼土

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