2023.05.19
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【出張前に知っておきたい、燕三条のものづくり技術・名品】

切れ味が落ちにくい“一生物”の包丁や繊細な手作業で作られたフライパン、世界一軽いホーロー鍋など。さまざまな名品に用いられる、燕三条ならではの金物加工技術をご紹介。

伝統的な職人技術が息づく街、燕三条。スプーンやナイフといったカトラリーの国内シェア90%を誇るなど、特に見逃せないのが金物加工です。一説によると、発展のきっかけは度重なる信濃川の氾濫。不作が多かった農業に代わる生業として、江戸時代に和釘(当時の建造物に用いられていた鉄釘)の製造技術が持ち込まれたとされています。資源が眠る山々や、物流で使える河川が多かったことも手伝い、その結果さまざまな金物加工技術が発展。明治時代には機械の導入によってさらに多様化しました。今回はそんな燕三条が誇る金物加工技術の中から3種類をピックアップ。その魅力と代表的な商品をご紹介します。




一生ものの切れ味を実現する「研削(けんさく)」技術



伝統技術と時代ごとの最新技術が共存しているのが、燕三条の職人技の特長。1953年に創業した包丁メーカー藤次郎株式会社が手がけるのは、日本刀のように鋼鉄を何度も叩いて成形する昔ながらの「打ち刃物」と、金属板を金型で打ち抜くことで成形する量産洋食器製造などで培われた「抜き刃物」の両方。まさに燕三条らしいメーカーと言えます。


中でも『藤次郎株式会社』が得意とするのは、打ち刃物の技術を用いながら、安定したクオリティで比較的安価に生産できる抜き刃物です。その製造工程で特に注目したい技術は「研削(けんさく)」。包丁材の断面を回転する砥石で削り出し、刃をくさび形に成形するというものです。丈夫で切れ味の良い刃を作るためには、砥石との摩擦熱によって本体の温度が上がらないように水で冷やしながら、4工程以上の手間を掛け徐々に研ぎ削ることが必須。また、『藤次郎株式会社』の抜き刃物は、鮮烈な切れ味とプロの仕様にも耐える耐久性、さらに研ぎ直しもしやすい、長年使える一丁に仕上がっているのが特長です。

▲『藤次郎 閃光 DPダマスカス鋼鍛造シリーズ

▼INFO:画像提供
藤次郎株式会社

https://tojiro.net/

新進気鋭職人が挑む繊細な「ヘラ絞り」技術


燕三条では多くのベテラン技術者を抱える老舗だけでなく、新進気鋭の若手職人が活躍しています。“ヘラ”という棒状の器具を一枚の金属板に押し当て、鍋やフライパンを成形する「ヘラ絞り加工」を得意とするミノル製作所はその一例。高齢化が進むヘラ絞り職人の中で最年少だった社長・本多貴之さんが創設し、若手社員を積極的に雇用するなど、後進育成にも積極的に取り組む企業です。

ヘラ絞り加工の主な作業は、金属に棒を「押し当て」「変形させる」こと。そう聞くとシンプルに思えますが、手作業にもかかわらず寸分の誤差なく仕上げるには、高度な技術が求められます。例えば、ヘラを押し当てる際には、銅やアルミ、ステンレスなど素材の硬度に応じた力加減の使い分けが必要。さらに、例え同じ素材であっても、力を入れるタイミングや位置にも適切な見極めが大事なのだとか。また、一般的なヘラ絞り工場の場合、その後に行う「トリミング加工」「成形」「研磨」といった工程は他の工場に任せることが多いですが、『ミノル製作所』では社内で一貫して行っているのも特長です。

そんな『ミノル製作所』の目玉商品といえば、ミニマルなデザインのフライパン型。取手を省いた形状のため、ヤットコなどの工具で挟むことで使用します。調理後はそのままお皿として使えたり、薪をそのまま入れて焚き火台として使えたりと、さまざまな用途で活用できるのもシンプルな形状だからこそ。素材を鉄やアルミ、真鍮など5種類から選ぶことができるほか、直径や厚さも細かな要望に応じて製作してくれるのも嬉しいポイントです。

▲『フライパン型シリーズ

▼INFO:画像提供

ミノル製作所 株式会社

https://minoruseisakusyo.jp/

世界一薄い鍋を実現。不屈の「鋳造(ちゅうぞう)」技術


高温で溶かした鉄を形に流し込み、成形する「鋳造(ちゅうぞう)」。その代表メーカーである三条特殊鋳工所は、60年近い歴史を持ち、“サントク”の愛称で親しまれています。もともとは工場の機械部品などを中心に生産していましたが、2010年にキッチンウェアメーカーによる「薄くて軽い鍋を作ってほしい」との依頼を受けたことにより、調理器具のOEM(他社ブランド製造)に着手しました。



機械部品の価格は“重ければ重いほど高い”とされているため、その真逆とも言える注文から始まった『サントク』の挑戦。しかし、「このままでは、技術向上への意識や文化が薄れてしまう」という危機感から、薄い・軽い・丈夫の三拍子が揃った鉄鍋の製作に見事成功しました。自社技術の新たな方向性に手応えを感じた『サントク』は、約200回の試作の末、厚さ2mmのホーロー鍋『キャセロール』を製作。そして2013年には自社ブランド『UNILLOY(ユニロイ)』を設立しました。

▲『UNILLOYフライパン
UNILLOYホーロー鍋『キャセロール』

キャセロール」は、鋳鉄ならではの熱伝導率の高さと、総重量は3kg以下という“世界一”の軽量性が魅力。食卓にそのまま出せばテーブルがぱっと華やかになるキッチンウェアとして重宝されています。また、包丁ブランド・GLOBAL(グローバル)なども手がけるデザイナー・山田耕民氏による、“水鳥”をコンセプトにしたデザインなど、徹底した美意識も『ユニロイ』ブランドの魅力。ドイツで行われる世界最大級の見本市「アンビエンテ」に出展されるなど、今や世界中の料理人が愛用する逸品となっています。

キャンプツールブランド「SSCamp!」も登場

▼INFO:画像提供
株式会社 三条特殊鋳工所
https://www.e-santoku.co.jp/

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Text:山梨幸輝

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