2023.05.17
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国内メーカーと地場企業をつなぐ“ものづくりの総合窓口”『燕三条こうばの窓口』。ついに始動開始!

2023年3月20日、JR東日本の燕三条駅2階に、地元の人々による期待を担った『燕三条こうばの窓口』がついにオープンしました。オープニングセレモニーから工場見学のプレスツアーまで見届け、この新しい窓口が果たそうとする役割と機能を追います。

情報発信を基にしたマッチングサービスを行う窓口

午前9時半から始まったオープニングセレモニーには、三条市の滝沢亮市長やJR東日本の小川治彦新潟支社長らが来賓として出席。地元企業の代表も駆け付けた模様は、当日の内に地元メディアで紹介されました。

『燕三条こうばの窓口』は、国内メーカーと地場企業をつなぐ“ものづくりの総合窓口”を目的した施設。これを設けた理由を、同施設の運営を行う株式会社ドッツアンドラインズの代表、齋藤和也氏にたずねると、燕三条地域が伝統としてきたものづくり産業の存続危機以外にないといいます。

 

「あらゆる産業で後継者不足が深刻になっている中、この地域に点在する数千の町工場が迫られている問題の一つは価格競争です。他所よりも安く請け負うというのは、ある種の生き残り作戦として妥当に見えながら、職人たちが培ってきた高度な技術の安売りとなり、いつまで経っても適正価格を取り戻せない状況をつくっています。そこを改めない限り、後継者になり得る若い人が燕三条で働く意欲を持ってくれません」

 


▲株式会社ドッツアンドラインズ代表 齋藤和也氏

「もう一つの問題――これが『燕三条こうばの窓口』設立に直結しているのですが、あまりに仕事の取りこぼしが多いこと。後継者は減っているものの、仕事自体は決して少なくなっていないんですね。つまり県外の企業は、燕三条地域に依頼したい案件をたくさん抱えている。にもかかわらずスルーされてしまうのは、この地域の町工場で何ができるか知られていないからです。一方で町工場からすると、人材不足に直面しながら日々の業務をこなす上で、情報発信まで手が回らない実情がある。そんな町工場単位の業務内容と技術力の情報をここで管理し、県外から訪れる企業の人々に伝え、互いにとって確実な収益を上げていくマッチングサービスを実現させたかった。その役割を果たすのが『燕三条こうばの窓口』です」

▲『燕三条こうばの窓口』

マッチングの具体的なツールとなるのが、『燕三条こうばの窓口』内に設置された『燕三条企業図鑑』。ラックには、月会費5,500円で登録を行なった100以上の企業の情報が記載されたカードが収められていました。訪れた人は、無料配布されるそのカードで各企業を訪問したり、持ち帰って次の商談企画に役立てることができます。また、“窓口”にはこうばの窓口スタッフが常駐し、カード以上の情報収集や具体的なマッチングのサポートも行うそうです。

 

▲『燕三条企業図鑑』

競走より共創。3年で100億円の売り上げを目指す

ここで一つの疑問が浮かびます。『燕三条こうばの窓口』にはウェブサイトも用意されていますが、今日的にはあらゆる機能をデジタル化したほうが効率的ではないでしょうか。何より物理的な場所や人材の確保には相応のコストがかかるはずです。

 

「デジタルとアナログの両方を兼ね備える必要があります。というのは、ホームページを持てる燕三条地域の町工場にしても、実際の技術力は現場を見てもらわないと伝えきれません。仕事を依頼する側も、自分たちが求める技術はその目で確認したいわけで、その出会いは“アナログ”そのものなんです。そして仕事を依頼したい県外の企業の人々は、ほとんど新幹線の燕三条駅を利用して燕三条地域の視察に訪れる。その駅に工場の情報が集積されていれば、取りこぼし問題の解決につながっていくはずです。『燕三条こうばの窓口』に併設されている『JRE Local Hub 燕三条』とのコンビネーションは、この地域の活性化に必ず貢献します」(齋藤氏)

『燕三条こうばの窓口』に先んじて2月に開業した『JRE Local Hub 燕三条』は、JR東日本が運営する地方創生型ワークプレイス。20席のコワーキングスペースや3部屋の会議室等を備え、県外から来訪するビジネスマンの活動を支える施設となります。ちなみにJR東日本が展開するこの事業の第1号拠点に燕三条駅構内が選ばれたのは、信越本線の無人駅に『EkiLab帯織』というものづくりの場を立ち上げたドッツアンドラインズとの縁も大いに関係しています。

「これからは、“競争より共創”。横のつながりで燕三条地域を盛り上げていかなければなりません。そのために『燕三条こうばの窓口』はトレーになります。これまでコップを1個ずつ手渡していた情報を、お盆にのせて届けるという意味で。目標は、『燕三条こうばの窓口』を通じた売り上げを3年で100億円にすることです。できますよ。100の参加企業が1社あたり1億円の成長を実現するのは、決して不可能な数字ではありませんから。日本一のものづくりの街を目指してやっていきます」(齋藤氏)

地元企業が『燕三条こうばの窓口』に求めるのは有機的な連携

『燕三条こうばの窓口』に参加する地元企業は、この施設にどんな期待を寄せているのでしょうか。オープニングセレモニーに訪れた方に話を聞きました。

  

オーディオの自社ブランドを持つ株式会社長谷弘工業の長谷川貴一氏は、情報発信に悩みを抱えていたといいます。

▲株式会社長谷弘工業 長谷川貴一氏

「県民性なんですかね。口下手な職人が多く、自分から進んで褒められるのが苦手なところがあって……。弊社の商品はスピーカー中心ですが、マニア向けなので多くの人に知ってもらう機会が少なかったんです。また元々が金属加工業で、おそらく今では国内唯一の万力(工作物を強固に挟んで固定する作業工具)をつくっている事実も知られずにいます。昨年からようやくSNSを始めましたが、より強力な情報のハブになってくれるところをずっと探していました。ですから『燕三条こうばの窓口』には大きな期待を寄せています。一方的に寄せるだけでは申し訳ないので、今回『燕三条こうばの窓口』の木製カウンターをつくらせてもらいました。スピーカー製作で培われた木材知識に金属加工の技術を組みわせた、弊社ならではの一品です」

 

梱包資材やシュリンク包装を扱う株式会社佐善商店の袖山茂雄氏も、自社の情報発信に苦戦していたそうだ。

 

▲株式会社佐善商店 袖山茂雄氏

「この5年でシュリンク・パッケージ事業を当社の柱に成長させたのですが、ネット検索では社名とシュリンクがつながらず、発注が他所に流れがちでした。伝統的な社名ですから、私としても残したい。けれど、どうやって弊社の事業を周知していけばいいか。そこに光を当ててくれるのが『燕三条こうばの窓口』だと思って参加しました。情報だけでなく、地域の企業同士が有機的な連携を果たせれば、これまでにないイノベーションを起こせる。それを求めていたのは、私たちだけではないと思います」

プレスツアーで見た『燕三条こうばの窓口』が果たしてゆく役割

オープニングセレモニーの終了後、ドッツアンドラインズの齋藤氏の案内で、2つの工場を巡るプレスツアーに向かいました。ここで齋藤氏が見せたかったのは、『燕三条こうばの窓口』が今後担っていく役割です。

 

最初に訪れた合同会社NK溶接は、小さな住宅街の奥にその工場を構える会社です。文字通り溶接のスペシャリストで、その日は花火の筒や急須の口を取り付ける作業を行っていました。

同行したのは、まさしく業務発注者。サウナプロデューサーのmadsaunist(マッドサウニスト)氏は、テントサウナで使用する新型のスチームジェネレーターをつくってくれるところを探していたそうです。齋藤氏経由でNK溶接の技術をmadsaunist氏が知り、当日は、試作機の打ち合わせで両者が対面しました。

 

「見てもらえればわかると思いますが、ここはホームページすらないんです」と齋藤氏。「こうした高度な技術が埋もれたままになっているのが現状です。それを何とか吸い上げたい。その仕事を私個人ではなく、『燕三条こうばの窓口』で実現させたいんです」

 

次に向かったのは、燕市の伝統技術とされるヘラ絞り工場の有限会社せきかわ工芸。30年近く前からチタン加工に特化し、アウトドア用品の調理器具やカップのOEM製造を得意としている町工場です。オープニングセレモニーで配られたカップもせきかわ工芸によるものでした。

▲有限会社せきかわ工芸 関川正幸代表

「今は機械化されたスピンニングマシンを利用していますが、これも手絞りの技術がないと使いこなせないんですよ。大事なのは手の感覚でね。ウチは500〜600種の金型を備えているから、すべてをマスターするには10年かかるかな」

 

関川正幸代表の職人らしい気概に満ちた言葉です。いずれにせよ一人前になるには相応の時間が必要となりますが、せきかわ工芸には高校生の頃から工場に出入りしている20代前半の職人もいます。この道を選んだ答えは爽快で、「とにかくカッコよかったから」。それを受けて、齋藤氏がつぶやきました。

 

「技術であれ仕事そのものであれ、やはり知ってもらうことが一番大事なんですよね。後継者問題も、それが解決の糸口になると思うんです」

“地方創生”というワードを越えた利他の精神とともに

燕三条地域に生まれ、自身も金属加工に従事する齋藤氏が一つの目標としていた『燕三条こうばの窓口』は、いよいよオープンを迎えました。肝心なのは、それがこの地域の窮地を救い、新たなイノベーションを起こす存在となり得るか。そのためには1日も早い成功例が必要なはずです。

 

「実は」と話してくれたのは、『燕三条こうばの窓口』のコンシェルジュでした。

 

「正式なオープン前から、この地域の工場が仕上げた製品を展示していたんですね。それを通りがかりの営業の方が見つけてくれて、『これはどこでつくれるんですか?』とたずねてくれました。そうした発見が実際の契約につながりそうな件が、すでにいくつかあります」

このエピソードには正直なところ驚きました。齋藤氏の目論見通りだったからです。いや、目論見というのは失礼な表現でしょう。地場産業とともに育ち、その素晴らしさと同時にさまざまな問題を自分事として受け止めてきた地元の人間だからこそ、現状を打開する有効策が見つけられたに違いません。

 

『燕三条こうばの窓口』、そしてJR東日本の『JRE Local Hub 燕三条』による活動は、地方創生という今時のワードでくくられるトピックスになるのかもしれません。しかし、その活動に可能性を見出して積極的に動く地元の人々にとっては、今時で終わらせられない覚悟があります。この類の話題は経済が軸になりがちですが、燕三条の人たちに触れるたび感じるのは、生まれ育った場所に対する深い愛情です。誰にとっても失ってはならないものを守り育む。そんな利他の精神が、新たな窓口となって開かれていくのだと思いました。

 

取りも直さず、伝統に裏打ちされた高い技術のものづくりを求めている方は、JR東日本・燕三条駅の改札から数秒でたどり着く『燕三条こうばの窓口』をたずねみてください。


 

INFORMATION

 

ものづくりの集積地である燕三条の地に、2023年開業した『燕三条こうばの窓口』では、県外メーカーと地場企業をつなぐ、“ものづくりの総合窓口”としてさまざまなサービスを提供しています。ぜひあわせてチェックしてみてください。

  

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text by 田村 十七男
Photos by 大石隼土

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