2024.01.22
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『EkiLabものづくりAWARD2023』各賞が決定。AWARDの核となる審査会のリポートに加え、審査員による特別座談会をリリース!

新潟・燕三条のものづくり技術と、応募者の「あれつくりたい」「これほしい」というアイデアをつなぎ、実際に販売する商品開発まで行うアイデアコンテストの『EkiLabものづくりAWARD』。第4回目となる2023年大会の審査が終了し、商品化が賞典となるグランプリとJR賞が確定した。今回は、様々な意見が飛び交った審査会の模様と、初参加のメンバーを含む審査員によるAWARD座談会をお届けする。

それぞれの『つくりたい』『欲しい』というメッセージだけでも応募できるコンテスト


2023年で4回目を迎えた『EkiLabものづくりAWARD』(以下、AWARD)の最大の特徴は、練りに練ったものであれ、一瞬の閃きであれ、「こんなものがこの世にあったら!」という個人のアイデアから商品にするまでを一つの物語にするところだ。その応募作品の商品化を、審査という形で検討するのがものづくりのプロフェッショナルたちである。今年は11月初旬に7名が集まり、JR東日本スタートアップ株式会社の本社会議室で白熱の選考が行われた。

第4回目のテーマは“つなぐ”。応募要項では「世代を超えてつないでいく遺伝子のように人やもの、考えや価値を紡いでいくアイデア」を募ると説明されていた。だが、AWARDの運営に留まらず、燕三条の活性化に尽力する株式会社ドッツアンドラインズを立ち上げた齋藤和也さんには、さらなる思いがあったようだ。

「僕らの会社名は、燕三条という地域の点と外の世界を線でつなぐ理念を表しています。回を重ねたところで、改めて理念に立ち返ろうと思い、今回のテーマとしました」

そうして回を重ねてみると、否応なく年ごとの変化に直面することになるのだろう。第4回目の応募総数は75。これは初回のおよそ半数に当たる。ただし齋藤さんは、その数を必ずしもネガティブには受け取っていない。

▲株式会社ドッツアンドラインズ代表 齋藤和也氏

「作品形態はA3横サイズのデータまたは用紙という二次元の規定がありながら、描かれる作品のレベルは年々高まっています。それは、商品化するというこのAWARDの特徴が理解されてきた表れともとれるし、ファンが増えて傾向と対策が練られるようになってきたとも思っています。もちろん数は多いほうがいいですから、宣伝や告知の方法などの見直しは不可欠ですが。それでも伝えていきたいのは、あくまでアイデアのコンテストであるということ。商品化に向かっては審査員の方々や、燕三条でものづくりに携わる職人たちが知恵を絞るので、アイデアだけでも応募できる事実をより広めていきたいです」

審査で見つけるのは、応募者には気づけなかったかもしれない付加価値


ここで2023年の審査員を紹介する。いずれもプロのクリエイターまたはビジネスのプロフェッショナルばかり。4回目に至り、2名の女性審査員が加わったのは今回初の変化だ。

JR東日本新潟支社長 白山 弘子氏

JR東日本スタートアップ株式会社 代表取締役社長 柴田 裕氏

DIY FACTORY/株式会社大都 山田 岳人氏

Hanakumo Inc. JUN WATANABE氏

pdc_designworks やまざき たかゆき氏

ミクストメディアアーティスト 東金 聖氏

(*アッシュコンセプトの名児耶 秀美氏は都合により審査会欠席。別途、審査員賞を選出)

上記に齋藤さんを加えた審査会参加メンバーの7名は、14時半から最終選考に残った作品の審査を開始。この審査会には、公正を期すためのルールが初回から設けられている。

【応募作品シートに名前・性別・年齢・職業・居住地といった、個人の背景がわかるような情報を記載しない】

上記の鉄則に則り、7名は作品シート自体の出来栄えに関係なく、アイデアのおもしろさと実用性を軸に議論を交わした。総じて耳にした感想は、「完成度が高い」。これは、先に齋藤さんが述べた傾向と対策が練られた可能性と符合している。ただ、手練れと言うべきか初回から審査を行ってきたメンバーからは「グランプリを獲ろうとする匂いがする」「商品化の意識が高い」というような、応募者の真意を探り当てる声も飛び出した。

「原価や在庫については、この時点で考えますか?」

これは今年初めて参加した審査員の質問。それに対して先輩の審査員は、次のように答えた。

「それは後々僕らが考えるので、この段階では発想の自由度を優先して、応募者には気づけなかったかもしれない付加価値を見つけ出してあげてください」

そのような発想自体がこのAWARDの核と言えるかもしれない。便宜上、審査員という名称を用いているものの、彼らは皆「このアイデアを形にしたい」とか「個人的につくってみたい」などとつぶやきながら、行きつ戻りつ繰り返し作品シートを手に取って眺めている。その上で、作品シートには記載されていない製法や、より良い素材の選択などについて各自の知見を出し合うのだ。つまり審査員たちが見たいのは、あくまでユニークなアイデアの芽であるということ。それにどんな花や実をつけさせるか、そこまで見守る責任を背負いながら作品をチェックしている。その思いは、意見交換が活発になるほど露になっていった。

約1時間半の集中審査を経て、すべての受賞作品が決定。詳細は別表を参照していただきたい。ここでは『一般の部・クリエイターの部』に贈られる二つの賞に触れる。

アイデアの商品化が約束されているグランプリは『teble×planter』。自然と一体的に暮らすことを目指した、プランターと一体となったローテーブルの提案で、円形テーブルの中央に備わる直径220㎜のくぼみに植物を植える鉢が描かれた作品だ。発想の豊かさに票が集まったが、審査員からは鉢の素材選び等々、商品化に向けた課題が語られた。

サポート付き商品開発とJRでの販売が検討されるJR賞は『磁石立皿』。これまでになかった収納方法として、一辺120㎜の正方形の皿に磁石を仕込んで立たせ、横方向のスタッキングを提案した作品だ。このアイデアがJR賞を獲得した経緯は、まさに『EkiLabものづくりAWARD』の真価そのものだったので、後に続く特別座談会で紹介させていただく。

新旧審査員が大いに語り合う『EkiLabものづくりAWARD』座談会開催!


回を重ねれば応募作品に進化が見て取れるように、AWARDの審査会にも新たな変化が起きるのは先に触れた通り。すべての審査終了後、今回初参加となった2名の女性審査員と、初回から立ち会ってきたベテラン審査員3名で、『EkiLabものづくりAWARD』について大いに語っていただく特別座談会を行った。2023年6月にJR東日本新潟支社長に就任した白山弘子氏と、陶芸をベースにミクストメディア作品を創造するアーティストの東金 聖さんには、初参加の感想を中心に。多方面で活躍されているpdc_designworks代表のデザイナー・やまざき たかゆき氏には、先輩審査員代表として審査の在り様をたずねた。

――新潟支社長に就任されて間もない白山さんからうかがいます。燕三条はご存じでしたか?

白山氏:私はもともと鍋釜食器の類が大好きでしたので、初めての新潟勤務で最初に思い浮かんだ地名が燕三条でした。『EkiLabものづくりAWARD』については、観光以外の切り口で地元を盛り上がる活動と聞いて、審査員をさせていただくことに強い意義を感じて参加させていただきました。

▲JR東日本新潟支社長 白山弘子氏

――職責上、様々な判断を迫られると思いますが、アイデアの審査はいかがでしたか?

白山氏:作品シートには言葉が少ないものも多く、イメージで解釈するのがとても新鮮でしたし、応募された方々の価値観の違いに触れられたのがおもしろかったです。

――同じく初参加の東金さんは、審査にどんな感想を持ちましたか?

東金氏:アーティスト活動をして約10年の私は、常に審査される側に立ってきました。ですから、何かを提案する人の気持ちがよくわかるんですね。エネルギーのレベルが感じ取れるというか。審査員は初めてでしたが、そのエネルギーの度合いを中心に見させてもらいました。

▲ミクストメディアアーティスト 東金聖氏

――蚊取り線香のアイデアには最初から関心を寄せていましたね。

東金氏:「あれは私が使いたい!」と思った作品でしたから。蚊取り線香というメガヒットの商品と寄り添っているところもおもしろかったです。

――過去すべての審査会に参加されてきたやまざきさんは、お二人の話をどう感じましたか?

やまざき氏:それぞれのバックボーンをもとに責任をもって審査されていることがよくわかって、先輩として感銘を受けました。個人的な話をすると、このAWARDには憧れを持ち続けています。自分のアイデアを提出できるから。僕が主にやっているプロダクトデザインは、あくまでクライアントに喜んでもらうのが使命なので、自分がつくりたいものではなく、絶対通るアイデアを狙う。その違いは大きいんですよね。

▲pdc_designworks やまざき たかゆき氏

――やまざきさんが審査で心掛けていることは何ですか?

やまざき氏:どんな応募作品に対しても、予想コストであれ、つくり方であれ、必ず自分事にしてみることでしょうか。そうでないと、商品化を謳っているコンテストの責任が取れなくなります。それは審査員全員がピリッとしながら選考しているポイントですね。一方で応募者に対しては、こんな人がこう使うと気持ちいいんじゃないか。そんなイメージができるところまで考えてもらいたいです。ただ、何が問題かわかっても解決策が見つからないから応募できないとは思わないでほしいんですね。私は講師もやっていまして、学生にはよくこう言います。問題と解決のつなぎ方がわからないまま提出していい。そこはプロが考えるからと。このAWARDも同じで、とにかくまずはアイデアを。もし商品化にとらわれ過ぎてハードルが上がっているとすれば、改めてAWARDの意義を伝えるべきかもしれません。

東金氏:すでに行われていると思いますが、送った作品が商品となるまでの変わり様をより詳しく伝えてあげられると、やまざきさんがおっしゃった応募者のハードルを下げる効果につながるのではないでしょうか。

――審査の段階でも、作品自体のアイデアに審査員のアイデアが重なった末に受賞したケースがありましたね。JR賞はまさにそうではありませんでしたか?

白山氏:JRで扱うとなると、安全・安心が最優先になりますから、最初はちょっと無難な線を狙ったところがありました。ですが、『磁石立皿』のお皿にJRの駅名などを入れてみたらとうかという皆さんのアイデアを聞いて、そういう発展のさせ方もあるのだと思いました。

やまざき氏:JRのグラフィックはレベルが高いですからね。

東金氏:『磁石立皿』を見た瞬間、私はいろんなストーリーが浮かびました。こういう収納方法はキャンプやグランピングでも使えるし、たとえばJRの駅名を描いたら子供の知育教材になるかもしれない。そういう情景が浮かぶのって、すごく大事です。

白山氏:やはり頭をかき回されるアイデアが楽しいですね。その過程では、東金さんがおっしゃった通り様々なストーリーが生まれますから。今回は応募数が少なかったそうですが、次回は私からもJRの社員にアピールして応募してもらえるよう働きかけます。

やまざき氏:ありそうでなかった作品に期待したいですね。身の回りをよく観察すると発見できたりしますから、普段から注意してモノを見るようにしていただければ。それを完成度の高い作品シートに仕上げなくても大丈夫。案外フラッシュアイデアが生きる場合も少なくありません。

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今後の『EkiLabものづくりAWARD』は、2023年の受賞作品が商品化するまでの流れをつぶさに報告していく。特別座談会でも話題に上ったように、“あのアイデアがこの形になる過程”にご期待いただきたい。

 
 
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【クレジット】
text by 田村十七男
Photos by 小川亮輔

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